ページの向こう側

4/4

第4話

ノートを手放す日

三冊目の本は、新しい形で始まった。

今度は、買ったばかりの本だった。帯がまだ巻いてあり、ページは真っ白だ。いつもなら青いノートを開くところなのに、その日は鞄に入れずに図書館を出た。理由は、自分でも定かではなかった。ただ、先輩の言葉が引っかかっていた。変わった読み手というのが、本当はどういう状態なのか、確認したくなったのだ。

最初の数ページは、ノートがなくても読める。しかし、いつもの困惑が訪れた。難しい表現、理解の曖昧さ、読み手の集中力の途切れ。それでも、ペンを握らない。その代わり、頭の中に問いを溜めてみた。

驚いたことに、記録されない疑問ほど、しぶとく残るものはなかった。忘れてしまうかもしれない、だから絶対に見落とすわけにいかない。そんな緊張感が、読書のスピードを遅くし、同時に深くしていった。

夜中、眠る直前のこと。ふと、朝読んだ章の一節が思い出された。そしてそれが、抱えていた問いと繋がる瞬間があった。ノートなしでも、読む行為が積み重なっていく。この体験は新しかった。

しかし、二日目の午後。ある部分で、メモを取りたい衝動に駆られた。これは忘れてはいけない。この思いだけは記録すべきではないか。そう考えていると、新しい葛藤が生まれていた。

ノートはきっかけに過ぎない。先輩はそう言った。では、何度も取り出し、書き直し、見返してきた自分の営みは。それらが、本当に必要なかったのか。

図書館に戻った時、デスクに青いノートを置いた。その上に、新しい本を広げた。ノートを使うか使わないか。その二者択一ではなく、今この瞬間、何が読む助けになるのか。そう問い直すことが、変わり続けるということなのかもしれない。

続きはまもなく

目次

コメント