第3話
締切の向こう側 第3話 反復のループ
修正が通った。クライアントからの返信は短かったが、明らかに満足の色が見えた。「イメージ通りです。ありがとうございました」。
それなのに、デザイナーは仕事が終わっても席を立たなかった。
前夜の発見が、まだ心に引っかかっていた。目的を見つめることで、仕事が変わった。では、いつもの案件はどうだったのか。他のクライアント、他の修正指示たち。あれらも、同じようにペースメーカーに踏み潰されていたのか。
メールボックスを開いた。来週の締切が三つ。再来週が二つ。いつもと変わらない流量だ。でも今、それらを見る目が違っていた。
まず最初の案件のメールを読み返す。やはり目的の説明は曖昧だった。修正指示も、表面的な指摘ばかりだ。以前の自分ならそのまま走り始めていただろう。でも今は、質問を返したくなる衝動に駆られた。
同時に、別の感覚も生まれていた。違和感だ。
この仕事のやり方を変えたら、本当に上手くいくのか。その確信はまだない。昨日の一件は、運が良かっただけではないか。修正内容が単純だったから、電話で確認する余裕が生まれただけではないか。もし複雑な案件だったら、こんな悠長なことはしていなかったはずだ。
実際、来週の案件は規模が大きい。製品パッケージの一式デザイン。クライアントも大手だ。こういう時こそ、締切に追われるモードに入らないと、納期に間に合わない。昨日の方法が、常に使えるわけではない。
そう思いながらも、デザイナーの手はキーボードに向かっていた。試しに、一通だけ丁寧な確認メールを送ってみよう。そう決めたのだ。
メールの草稿を何度も読み返した。押し付けがましくないか。仕事を遅くしているのではないか。そうした懸念もある。それでも送信ボタンを押した。
返信が来たのは数時間後だった。クライアントから電話の提案だ。明日の午前中に打ち合わせができないか。
また新しいループが始まろうとしていた。でも、デザイナーは確実に違うことに気づいていた。今度は、ループの中身が変わるかもしれない。その可能性を、恐れるべきか、期待すべきか。まだ、判断がつかなかった。
続きはまもなく
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