ハイライトの向こう側

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第2話

手を動かす前に

何も使わずに読む。その実験は思ったより辛かった。

最初の三十分は集中できた。だが章が進むにつれ、「これ大事かもしれない」という箇所に出くわすたびに、ペンを握りたい衝動に駆られた。頭の中で「あとで思い出そう」と念じても、二ページ先には内容が薄れていた。

一週間かけて一冊読み終えた時、俺は虚脱感に包まれていた。記憶に残ったのは、せいぜい大まかな流れだけ。これなら最初のアプリの方がマシだったんじゃないかという疑問さえ浮かんだ。

年上のエンジニアにこぼすと、彼は笑って言った。「その虚脱感が大事なんだ。何を忘れるかが見える」と。

その日の夜、俺は新しい試みを始めた。読みながら、手書きメモをする。ただし、ルールを一つだけ決めた。要約しない。読んでいる最中に「ん?」と思ったことだけを、そのままの言葉で殴り書きする。なぜそこに引っかかったのか、理由は後で考えることにした。

三冊目の本を読み始めたとき、何かが変わった。メモを取ることが、思考を止めるのではなく、むしろ加速させていることに気づいた。走り書きの行間に、自分の疑問が生まれていたのだ。

デジタルとアナログの違いは、ツールの性能じゃない。手を動かす間に、頭の中で何が起きるのか。その過程を失うか、保つか。その一点だけなんじゃないか。

そう思い始めた矢先、職場のプロジェクトで予想外の提案を求められた。デジタルツールの新しい運用方法の検討だ。読書メモの試行錯誤が、仕事の現場でも問い直されることになろうとは、その時は知らなかった。

続きはまもなく

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