眠りの処方箋

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第2話

データが映さないもの

その日の外来は混雑していた。午前だけで二十人近い患者を診察する。その中に、Bさんという四十代の営業職の男性がいた。

彼は初診から三ヶ月が経っていた。私が処方した睡眠薬と生活指導により、入眠潜時は短縮し、夜間覚醒の回数も減少していた。数字の上では成功例だ。だが彼は診察室で、いつも同じ訴えを繰り返していた。

「眠りが浅いんです。朝起きたとき、体が重い。」

私は彼のデータを見返した。昨夜の記録では、総睡眠時間は七時間十五分。深睡眠の比率は二五パーセント。基準値の範囲内だ。脳波には問題がない。客観的に見れば、彼は十分に眠っている。

「Bさん、数値はむしろ改善していますね。」と私は説明した。

Bさんは肩を落とした。「でも、眠った感じがしないんです。」

診察室を出た後、私は一人、記録用紙を見つめていた。彼の言葉が引っかかっている。データが示すものと、人間が感じるものの間に、何か決定的な溝がある。

そこへ看護師が顔を出した。「先生、次の患者さんが……」と言いかけて、「あ、でも先生が何か考えてるようなので。」

I paused. 実は、私も何かを考えていた。研究室の波形、診察室での患者の表情、そして窓の外の夜明け前の街。それらがすべて、同じ問題を指差しているような気がしていた。

もしかして、私たちは間違った「良い睡眠」を探し続けているのではないか。科学は睡眠の構造を明らかにしたが、同時に人間にとって本当に必要な眠りが何かを隠してしまったのではないか。

午後の外来が始まる前に、私は自分の診察ノートを開いた。そこには、これまでの患者たちの「眠った感覚」についての記述が残っていた。改めて読み直してみると、データでは説明できないパターンが浮かび上がってくる。仕事のストレスが高い時期に眠った感覚が薄れる。家族と過ごした日は睡眠時間が短くても満足感がある。心配事がある夜は、客観的には深い眠りでも、朝は疲れたままだ。

これらは、すべて私が測定してこなかったものだ。

続きはまもなく

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