第1話
第一話 測定不可能なもの
朝5時。まだ暗い研究室で、私は睡眠ポリグラフの波形を眺めていた。REM睡眠の時間、深睡眠の割合、入眠潜時——あらゆる数値は完璧だった。患者Aさんのデータは教科書的な良好な睡眠を示していたのに、彼女は昨日の診察で同じ言葉を繰り返していた。「先生、眠った気がしないんです。」
科学は正直だ。だからこそ厄介なのだ。脳波は嘘をつかないが、人間の「感覚」はそれよりも複雑らしい。私の専門は睡眠生理学。数値化できるものしか信じてこなかった。十年の研究で、私は多くの患者を数字で治療してきた。睡眠時間を増やし、深睡眠の比率を高め、規則正しいリズムを取り戻させる。そうすれば皆、良くなるはずだった。
しかし最近、診察室での違和感が増している。データ上は改善した患者が、実生活では苦しんでいる。逆に、測定値では平凡な睡眠なのに、充実した表情で「最近よく眠れるようになった」と報告する人もいる。
私は波形から目を離し、窓の外を見た。夜明け前の街はまだ静寂に包まれている。この瞬間、一つの疑問が頭をもたげた。もしかして、私たちが「良い睡眠」と定義してきたものは、本当に必要なものなのだろうか。
続きはまもなく
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