デスク戦記 〜肩こりとの日々〜

8/8

第8話

第8話 問いの行き先

帰路、その問いを手帳に書き留めた。

「記録は、肩こりを治しているのか。それとも、肩こりとの関係を変えているだけなのか」

三週間前の自分なら、この問いは答えが出ないまま夜中まで考え込んでいただろう。だが今の私は違う。答えの有無よりも、問い続けることそのものが大切なのだと、どこかで気づいていた。

金曜日の朝。いつものようにデスクに着く前に肩に手を当てる。今朝は五時に目が覚めた。昨夜は十二時まで読書をしていた。肩の状態は、軽いとも重いとも言えない。ただ、その中間地点に自分がいることが、何となく心地よかった。

一ヶ月の手帳を眺めると、線引きの跡が何本も刻まれていた。朝の観察、昼の変化、帰路の気づき。記録された日々は、一見すると同じことの繰り返しに見える。しかし、ページをめくるたびに微妙なズレが見える。天気、睡眠、散歩の有無、食べたもの、読んだ記事。それらが絡み合い、時には肩こりを軽くし、時には重くする。

午後、田中さんが再び声をかけてくれた。「相変わらず調子いいね」。今度は、何と答えるべきか迷わなかった。

「まあ、良い日もあれば悪い日もあります。でも、その違いが何なのか、少しずつ見えてきた気がします」

彼は頷いた。細かい説明は不要だったのだ。

帰宅後、手帳に最後の一行を書き加えた。

「肩こりは消えていない。ただ、それはもう敵ではなく、自分の身体からの声になった。毎日、その声に耳を傾けることで、少しずつ、その先にある何かが見えるようになっている」

ペンを置いて、窓の外を眺めた。四週間前、この連続した記録を始めた時、私は肩こりから逃げ出そうとしていた。だが逃げるのではなく、向き合い、対話する。その営みの中で、何かが確実に変わったのだ。

完全な解決を求めるのではなく、問い続けることの価値。それが、この一ヶ月間で得た、最も大切な気づきだった。

明日も、朝の儀式は続く。

(完)

目次

コメント