第3話
計測される日常
限が迫っていた。だが「成果物の完成度」という項目だけは、数値化できない曖昧さを残していた。
金曜日の午前、田中は佐伯とのビデオ通話に臨んだ。画面の向こうの佐伯は、いつものように穏やかな表情をしていた。
「まず全体の傾向から説明しますね」と佐伯は切り出した。「リモートと出社、両方のデータを比較する中で、興味深い現象が見えてきました」
田中は、自分の数値が良好だと予想していた。だからこそ、佐伯の次の言葉は予想外だった。
「Slackの返信時間が早い人ほど、実は完成度の評価が低い傾向があります。すぐに返信することで、思考時間を削っているのかもしれません」
それは田中自身を指していた。レポート提出の期限も達成していたが、その品質についての言及はない。佐伯は資料を見せた。グラフ、棒グラフ、散布図。しかし最も重要な「完成度」の定義は、やはり曖昧なままだった。
「これらのデータから、どういう結論を導くつもりですか」田中は尋ねた。
佐伯は一呼吸置いた。「それを決めるのは、経営層とメンバーの対話だと思います。データは一つの材料に過ぎません」
通話を終えた後、田中は自分のメール履歴を見返した。すべてが記録されている。応答時間、送信内容、返信率。だがそこには、判断や迷いや、創造的な思考の時間は映っていない。
Slackには新しいメッセージが届いていた。山本からだ。「明日、話せませんか。オンラインじゃなくて」
続きはまもなく
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