第7話
形になる前に
コメント欄に似たような悩みを抱えた人たちの声がたくさん並んでいた。
「同じです」「わかります」「私も夜中に何度も」。画面を下へスクロールしても、同じようなメッセージが次々と現れる。これまでずっと、自分だけの問題だと思っていた。それが幻想だったことに気づく。
しかし同時に、違和感も覚えた。
このコメント欄に溶け込むのは簡単だ。共感の言葉を重ねて、一緒に悩んでいる感覚に浸ること。それは心地よい。だが、ここに留まっていても、朝は来ない。
自分が記録に付け始めたのは、「睡眠の質」という言葉を見た直後だった。その言葉は、漠然とした苦しみを「試行錯誤の対象」に変えてくれた。記録という行為自体が、単なる消費ではなく、何かへの手がかりになった。
スマートフォンを置き、手帳を開く。
昨晩、目が覚めたのは午前2時37分。ストレッチをして、窓を開けた。再び眠りに落ちたのは3時15分。朝まであと3時間。完全ではない。だが「上手くいかなかった」ではなく「3時間つながった」と書く。視点を少しずらすだけで、同じ事実が違う形を持つ。
記録の端に、気づいたことを書き足した。昨晩は就寝の1時間前にストレッチを始めたこと。その前の日は30分前だったこと。順序が逆だった日は、目が覚めてからのストレッチでも効果があったこと。
まだパターンには遠い。だが、形になり始めている。
この先、記録が増えていけば、もっと見えるものがあるはずだ。コメント欄の「同じです」は終わりではなく、始まりになるかもしれない。その先を歩むかどうかは、自分で決める。
夜が来る。また試す。また記録する。朝が来る前に、何が起きるのか。
続きはまもなく
目次