第3話
第3話 水曜の小さな工夫
スーパーの前で立ち尽くしたまま、携帯を開いた。時刻は午後6時半。いつもなら、コンビニで弁当を手に取っている時間だ。
家に帰ってから何かを作る。その選択肢が、ここ最近は重みを持つようになっていた。
冷蔵庫には、火曜に使い切れなかった野菜がある。ニンジン、玉ねぎ、もやし。全部ではないけど、何かになるかもしれない。スーパーに入るなら、足りない分だけ。つまり、昨日よりずっと少ない。
レジの列に並びながら、ふと気づいた。昨日の朝、あの5分で食べ終わった感覚がまだ残っている。「顔色いいぞ」という田中の言葉も。自分では何も変わっていないと思っていたのに。
家に着いたのは7時を過ぎていた。火曜よりは早い。キッチンに立ち、冷蔵庫を開けた。昨日のままの野菜たちを見ながら、包丁を握った。切り方を少し工夫してみようか。そんなことを考えている自分がいた。
ニンジンの千切りは、昨日より揃っていた。意識していたわけではないのに。玉ねぎの薄さも。小さなことだけど、手が覚えているのだろうか。
20分で一皿が出来上がった。火曜は一時間以上かかっていた。
テーブルに置いて、箸を持った時、ふと思った。これを毎日続けるということは、どういうことなのか。朝の時間が戻ってくるということ。でも、夜の時間は何かに取られるということ。
一口食べた。昨日よりうまい。そう感じるのは、手間がかかったからか、それとも慣れてきたからか。
木曜の朝。また同じ選択肢が待っているはずだ。