第1話
第一話 統計の罠
大学の講義で見た一枚のスライドが、ずっと頭から離れない。
「創業企業の90%が失敗する」
プレゼンテーション資料としてはシンプルで、説得力があった。教授はその数字を根拠に「起業は避けるべきリスク」という論調で講義を進めていた。周囲の学生たちも頷いている。当然の結論として。
でも僕は疑問に思った。その90%の中身って、実際何なんだろう。
放課後、図書館でいくつかの論文を漁ってみたけど、出てくるのは似たような数字ばかり。どこから来たのか、どう定義されたのか、そういった根拠が曖昧なまま、統計として独り歩きしている感じがした。
スマートフォンで「起業 失敗」と検索すると、成功談と失敗談がごちゃ混ぜで出てくる。インタビュー記事では、創業者たちが「失敗」についてさまざまに語っていた。事業を閉じた人、方向転換した人、規模を縮小した人。同じ「失敗」という言葉でまとめられているけれど、その内容は全然違っている。
数字は確かで客観的に見えるけど、その背景にある複雑さを隠してしまっているんじゃないか。そんなことを考え始めたら、止まらなくなった。
翌日、SNSで「創業失敗の統計について知りたい」とつぶやいてみた。正直、誰も反応しないと思っていた。でも数時間後、DMが届いた。
「その統計、実際に調べてみたことがあります」
メッセージの相手は、数年前に起業をした人だった。
「統計は統計だけど、それを理由に諦めるのは勿体ない。むしろ、なぜ失敗するのか、その理由を知ることの方が大事だと思いませんか」
初めてのやり取りだった。でもその短いメッセージから、漠然とした数字の向こう側に、物語が隠れていることを感じた。
次の日、その人との初めての対面が決まった。カフェで会う約束。数字では説明できない、起業という現象の本当のところを聞いてみたい。そんな気持ちで、僕は会いに行った。
続きはまもなく
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