第8話
第8話 工夫が積み重なるとき
意識的な工夫が始まってから、私は毎日のごはんの中に、予想外の発見を重ねることになりました。
限られた時間の中で「何ができるか」と問い直すたびに、新しい選択肢が現れるのです。たとえば、疲れた夜は完成度の高さを目指さず、調理の過程そのものを楽しむ。野菜を切る手つきが少し丁寧になるだけで、その日のごはんの質感が変わる。そんなことを繰り返していると、「完璧でなければ続かない」という呪いから、自然と解放されていきました。
もう一つ気づいたのは、工夫は孤立していないということです。限られた中での工夫は、自分の生活リズムや季節、その時々の気分とつながっています。月曜日の疲労と日曜日の余裕は別物。冬の根菜と夏の青菜は、おのずと調理の手順を変える。そうした無数の条件を、毎回新しく読み直す。その営みが、結果として「飽きない自炊」を作っていたんだと気づきました。
何度も挫折を経験した私は、今もときどき自炊が億劫に感じます。ですが、そういう時こそ、前の自分と違う選択肢が見える。今夜は温かいスープだけ、とか、調理の手を抜いて盛り付けに時間を使おう、とか。完全に続ける必要はなく、その時々の自分に合わせて、形を変えながら続ける。それが答えだったのだと思います。
毎日のごはんは、特別なものではなく、自分の今を映す鏡です。その中で何度も工夫を重ねることで、私たちは少しずつ、自分のペースを取り戻していく。忙しさも疲労も消えはしませんが、それらとどう付き合うか、その問い方を知ることができる。
この連載を通じて感じてもらいたかったのは、自炊を続けるコツではなく、続ける中で自分とどう向き合うか、その道筋です。完璧さを手放し、限られた中での工夫を重ねる。その繰り返しが、やがて自分たちの「続く形」を作っていく。
毎日のごはんは、終わりのない営みです。だからこそ、その中で何度も立ち止まり、問い直す。その営みそのものが、私たちを少しずつ、強くしていくのだと思うのです。
(完)
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