軌道上の声

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第1話

第一話 ノイズの中で

田中がコーヒーをすすりながら監視画面を眺めるのは、もう十年以上の習慣だ。深宇宙通信基地の地下室。ここは地球から数百億キロ離れた探査機たちとの細い糸のような通信を受け取る場所である。

いつもと同じ夜勤。パターンマッチングのアルゴリズムが淡々と既知の信号を分類していく。火星探査機、木星軌道の観測衛星、そしてはるか彼方の太陽系外縁の探査機。それぞれの電波は周波数と変調方式で識別される。

だが今夜、何かが違った。

スペクトラム画面の左下、本来ノイズだけが占めるはずの帯域に、定期的なパターンが現れていた。田中は最初それを計器の不調だと思った。十年の経験は、しばしば直感と共に来る。だがフィルタを調整しても、パターンは消えない。むしろ、より明確になる。

既知の探査機の電波ではない。周波数、送信間隔、変調方式—どれもが微妙にズレている。異なっている。それでいて、完全なランダムノイズではなく、明らかに何らかの意図的な信号に見える。

田中は上司に報告する前に、自分で検証したくなった。データログを遡る。昨日?一週間前?記録を漁ると、このパターンは少なくとも三ヶ月前から存在していた。ずっと自分たちの目の前にあったのに、標準的なノイズフィルタに引っかかって捨てられていたのだ。

手の震えは自分でも気づくほどだった。田中は深呼吸をして、通信解析ソフトを起動する。既知の探査機のデータベースと照合。一致しない。太陽系内の既知の物体から来た信号ではなく、その外側からのものらしい。

外側。

画面の解析結果を見つめながら、田中は改めて考える。太陽系の外縁には、確かにいくつかの探査機が存在する。だが、それらは地球から遠ざかる一方で、このパターンは—

再度フィルタを調整する。信号の到来方向をプロットすると、それは確実に太陽系内部から発生している可能性が高い。それでいて、どの既知の機器にも該当しない。

コーヒーはとっくに冷めていた。田silon は明け方の報告書を書くべきか、それとも先にもう一度、基礎データから検証すべきか考えた。

いずれにせよ、明朝の会議で何かを伝える必要がある。ただし、何を言うべきかは、まだ自分でもわかっていなかった。

続きはまもなく

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