山靴が語ること

4/4

第4話

装備の「正解」を探して

登山用品店での二度目の訪問から数日後、僕はオンラインのコミュニティで装備について質問を投げてみた。同じ山を目指す人たちの回答は、期待していた以上にばらばらだった。

「この季節ならレインウェアは必須」「いや、軽さ優先で薄いシェルで十分」「初心者なら安全側に厚めを」。どれも根拠がありそうで、どれも違う前提に立っていた。

悶々としていた時、職場の先輩・田中さんが声をかけてくれた。田中さんは登山歴十五年。年に十回以上は山に入るという。

「装備の話してるんだって。何を迷ってるんだ」

ザック、靴、レインウェア、行動食。選択肢が多すぎることを伝えると、田中さんは机の上にカタログを広げた。ページをめくりながら、彼が指摘したのは意外な点だった。

「高い道具と安い道具の差は、実は『どれだけの経験を積んだ人向けか』という時間軸の違いなんだ。経験者は自分の失敗パターンを知ってるから、それに対応した道具を選べる。初心者は、まだその失敗さえ知らない」

「では、何を基準に選べばいいんですか」

「最初は『自分が何を大事にしたいのか』をはっきりさせることだ。重さか、耐久性か、価格か。その優先順位さえ決まれば、自然と選ぶべき道具が見えてくる。そして、その選択が正解かどうかは、山の中でしか判断できない」

そう言って、田中さんは自分の古いザックを見せてくれた。何度も修繕された跡があり、色も褪せていた。

「これ、もう十年使ってる。最初は高い新型を買おうと思ったけど、友人のこのザックを借りて山に入ってみたら、自分には十分だった。その経験があるから、今も愛用してるんだ」

出発まで、あと十日。靴を履いた坂道の歩行は続いていたが、同時に僕は装備選びの本質が、完璧な準備ではなく『自分の判断基準を持つこと』にあるのだと少しずつ理解し始めていた。

続きはまもなく

目次

コメント