第7話
第7話 前任者の沈黙
主人公は足を止めた。背中に感じる課長の視線が、何かを確認しようとしている。
「佐藤、ですか」
前任者の名前を聞くことで、主人公は状況の深さを改めて認識した。この違和感は、自分一人の考察ではなく、何か既に知られた問題なのではないか。
「彼は三ヶ月前に異動になった。別に何か問題があったわけではないが、在籍中、同じようなことを口にしていたんだ。データの解釈について、慎重になれと」
課長は机に身を預けるように座り直した。その姿勢は、主人公に何かを説明する準備だった。
「俺たちの部門は、経営の意思決定を支える立場だ。そこに異議を唱えることは、時に必要だ。だが、タイミングと伝え方を誤ると、単なる反抗に見える。佐藤はその線引きができなかった。結果、評価が下がり、別の部署への配置転換を迫られた」
その言葉の後ろにある、無言の警告は明らかだった。
「僕は、部門の判断に反対しているわけではなく」
「わかっている。だから聞いてる。君は佐藤の二の舞になる気か、という話だ」
課長の視線は決して冷たくなかった。むしろ、気遣いのようなものすら感じられる。だが、それがより一層、主人公を追い詰めた。正しさと生存戦略が、対立している。
「月曜の会議で何が起きるか、見届けるんだ。その後、どう動くかは、そこからだ」
課長はそう言い残した。
主人公は会議室を出た。廊下の蛍光灯が、いつもより白く感じられた。データは変わらない。だが、その周囲の空気は、刻々と変わっている。自分は何を守るべきなのか。その問いに、答えはまだ見つからない。
続きはまもなく
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