第3話
試行錯誤の夜
翌日、仕事から帰ってきた俺は、いつもより早く冷蔵庫を開けた。
昨夜のスープが、頭の片隅に残っていたのかもしれない。あの20分間の試行錯誤。味見をして、塩を足して、また味見をする。その過程が、ここ数年の自炊には欠けていたものだった気がする。
今夜の食材を眺めながら、俺は考えた。効率的な毎日って、実は何もしていないのと同じなんじゃないか。いつもの組み合わせ、いつもの味付け。それは確かに無駄がない。でも同時に、何かを失ってもいる。
冷蔵庫の中身は昨夜とほぼ同じ。でも今夜は別の選択肢が見える。鶏肉をオリーブオイルで炒めて、残りの野菜を加える。あるいは、ご飯を炊いて、卵とじにするのもいい。
レシピを検索する手もある。だが、昨夜の感覚を思い出すと、その気にはなれない。検索結果に従うことが、本当は楽だったんだ。判断を委ねるのは、簡単だ。
今夜も味見をしながら作ろう。失敗するかもしれない。でも昨夜のスープは、失敗ではなかった。むしろ、それが何かを思い出させてくれた。
鍋を火にかけ、油が温まるのを待つ。その間、俺は気づき始めていた。自炊を続ける理由が、少しずつ形を変えつつあることに。効率や節約ではなく、何か別のものに。
続きはまもなく
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