第3話
第3話 反復という迷路
逆説だと気付いた。
「学ぶ」ことを効率化しようとして、僕は学ぶことそのものを失っていたのか。
ノートを置き、再び本に向き合う。同じ一文を読む。二度目。三度目。
デジタルツールなら、ここで「既読」と判定される。検索インデックスに加えられ、AIが類似コンテンツを提案してくれるだろう。だが紙とペンの前では、すべてが曖昧に留まる。
その曖昧さが、実は大切なのではないか。
同じ文を何度も読むことで、初回には見えなかった層が浮かぶ。余白が生まれる。その余白に、自分の経験や疑問が入り込む余地ができる。デジタルが「すでに整理された知識」を提供するなら、アナログは「未整理の思考」との対話を強制する。
ペンを走らせる。今度は、読んだ内容ではなく、読みながら浮かんだ疑問を書いた。なぜこれは重要に感じるのか。昨日の仕事のどの場面と関連するのか。
そこで止まった。
この「止まり」が、ツールに最適化された脳には、耐えがたい。進捗を示すメトリクスがない。達成感がない。ただ、考えが渦巻いているだけだ。
スマートフォンを取りに行こうとした足が、止まる。
別の部屋にあるそれを持ってきたら、この「止まり」は消える。すぐに答えが得られる。曖昧さは解消される。でも同時に、今、この瞬間に起きている「何か」も消えるだろう。
机に戻る。ノートはまだ、一ページ目だ。
四ページ目も、五ページ目も、進まないかもしれない。でも、それでいいのではないか。本当の学びとは、進捗ではなく、反復の中で自分が変わっていく感覚なのではないか。
ペンを握り直す。白紙のノートに、また同じ一文を書き写した。
こんどは、違う理由で。
続きはまもなく
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