第2話
白紙の恐怖
朝日が部屋に差し込む。机の上には、何もない。ノートペン。それだけ。
Kindleも、Notionも、スマートフォンも、すべて別の部屋に置いてきた。その行為自体が、自分にどれほどの不安をもたらしているか、その時になってようやく気付いた。
本を開く。昨年買ったまま読みかけだった本だ。デジタルシェルフには「積読リスト」として登録されているが、実際の本はここにある。
一ページ目。二ページ目。
何も記録されない。何も整理されない。何も検索対象にならない。
そのことが、予想外に苦しかった。
走り書きするなら、この一文を何度も読み直してからだろうか。でも今の僕には、その判断ができない。「重要かどうか」を判定するまでの思考そのものが、ツールに委譲されていたのだ。アルゴリズムが整理してくれるのを待つ間に、自分の判断基準をどこかに置き忘れていた。
三十分が経った。一章も読み終わらない。心が散漫だ。次のページに進む理由が、曖昧に見える。
ここで立ち上がって、スマートフォンを手にしたら、きっと「学習管理アプリ」を開くだろう。読了予定日を確認して、進捗率を気にして、それで安心するだろう。
だが、それは読むことではなく、「読んだことにする」ことではないだろうか。
白紙のノートを見つめる。ペンを握ったまま、一行も書かない。
「本当の『学ぶ』って、これなのかもしれない」
そう呟いた時、逆説的だが、初めて読むことが始まった気がした。
ただし、その先に何があるのか、まだ僕は知らない。
続きはまもなく
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