第8話
第8話 朝日の中で
「良い」と感じるのは、何だろう。
月曜日の朝。いつもより早く目が覚めた。身体の重さはない。頭も冴えている。この状態を、どう呼べばいいのか。「習慣が身についた」という表現でいいのか。それとも、もっと別の何かなのか。
カーテンを開けると、薄紫色の空が広がっていた。朝焼けの前。一日で最も静かな時間帯だ。窓を開け、冷たい空気を吸い込む。体がしゃんと立ち上がる感覚。これを毎日感じられるようになった。
手帳を開いて、簡単に記録する。朝の時間、その日の気分、夜寝るまでの流れ。三ヶ月近くの積み重ねが、ページを埋めていた。だが記録そのものはもはや目的ではない。単に、自分がどう変わったかを、後で思い出すためのしるしに過ぎない。
健康診断から四ヶ月。数値は確実に改善している。先週の検査結果を見ると、医者も「維持できれば十分」と言ってくれた。
だが、それより大切なことに気がついた。
朝が「苦手」ではなくなったのだ。無理に起きているのではなく、自然に起きている。日中も頭がクリアで、判断が鈍くない。夜も眠い。当たり前のはずのこの循環が、ずっと欠けていたのだと、今になってわかった。
スマホを手に取ると、問灯で「朝起きるのがつらい」という投稿を見かけた。共感のコメントが多くついている。かつての自分もそこにいた。うんざりしながら、焦りながら、何かを無理に変えようとしていた。
その下に、ある返信が目に止まった。「小さく始める。それだけです」
笑みがこぼれた。
自分も、何かを大きく変えようとは思わなかった。ただ毎朝、コップ一杯の水を飲んだ。少し体を動かした。夜、スマホを遠ざけた。それだけ。
あの朝焼けの空を見ながら、思った。
習慣とは、頑張り続けることではなく、続ける価値を体で知ることなのだ。そしてその価値に気づくまでには、誰にでも少しの時間が必要だ。焦らず。無理なく。五分の積み重ねで十分。
月曜日の朝は、相変わらず静かだった。だが、その静けさの中には、確かな充足があった。
(完)
目次