第2話
ユーザーの声が教えてくれたこと
善の始まりだったのかもしれない。
課金機能の実装から二週間。改善要望は5件から12件に増えていた。その中には、単なる不具合報告ではなく、「こういう使い方をしているから、こんな機能があると助かる」という、具体的な利用シーンに基づいた提案が含まれていた。
驚いたのは、その中の何人かが自分の本業や趣味について教えてくれたことだ。エンジニアとしてのスキルレベル、どんな環境で働いているのか、なぜこのツールを選んだのか。無料ユーザーからは得られなかった、具体的な文脈が見えてくるようになった。
同時に、新しい不安も生まれた。期待に応えなければならないというプレッシャーだ。月に数千円程度の収益で、彼らの要望に全て応えられるのか。本業が忙しい月は、開発ペースが落ちる。そうなると、せっかく信頼してくれたユーザーを失うのではないか。
深夜、Slackで友人の起業家に相談してみた。すると、意外な返事が返ってきた。「100%完璧に応えようとするな。代わりに、応えられる範囲を明確に伝えろ」。その人は、自分の開発ペースをユーザーに公開し、月ごとの優先順位を決めて、何ができて何ができないかを透明にしているという。
そこまで、自分は考えていなかった。ユーザーとの関係を、単純な提供者と消費者だと思っていたのだ。だが、有料版に移行した彼らとの関係は、もっと複雑で、もっと対等なものになっていたのかもしれない。
翌日、簡単なロードマップをWebサイトに公開することにした。完成予定の機能、検討中の機能、今月の開発予定。プロフェッショナルとは言えない形式だったが、ユーザーの反応は肯定的だった。その中の一人から、「開発の透明性があると、待つのが苦じゃない」というコメントが届いた。
それは、自分が副業で開発することの、ある種の正当性を感じさせてくれた。完全に献身的ではなく、本業との間で揺らぎながらも、その揺らぎそのものをユーザーと共有できれば、何か違う形の関係が生まれるのではないか。
しかし、その考えが本当に機能するのか。ユーザーは本当にそれを受け入れてくれるのか。小さな100円の先に、まだ見えていない課題が潜んでいるような気がしていた。
続きはまもなく
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