余白の時間

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第一話 引っ越しの朝

朝の光が、ほぼ空の部屋を斜めに横切っていた。

段ボール箱が三つ。衣類、本、キッチン用品。それだけだ。五年住んだ前の家からは、トラック一台分の荷物を処分した。フリマアプリ、寄付、ゴミ処理場への往復。その過程で何を手放すか、何を残すか考え続けた。

新しい家は築四十年の一軒家。駅から遠く、周辺は田んぼと畑。不動産屋は「リノベーション物件です」と言ったが、実際はシンプルなだけだった。壁は白く、余計な装飾がない。その空白さが、妙に心地よかった。

ソファはない。テーブルは折りたたみ式。照明は一つだけ。前の家では常に何かが足りない気がして、新しいものを買い続けていた。スマートスピーカー、加湿器、観葉植物。でも満たされなかった。

窓から見える田んぼで、農家のおじいさんが作業をしている。朝六時からだ。同じ時間を過ごしているのに、その人生はまったく違う。

コーヒーを淹れた。粉も、フィルターも、マグカップも、すべて手で扱った。音がする。香りがする。それだけで、今日という日が始まった実感がある。

前の家では、朝は通勤ラッシュへの準備だけだった。今日は、それからどうするか、まだ決めていない。

その空白さが、今朝は特に心地よかった。

続きはまもなく

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