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第1話

第一話 手放すこと

東京での仕事を辞めると決まった時点で、俺は気づいていなかった。8年住んだ部屋には、思った以上にモノが積み重なっていたということに。

引っ越し業者の見積もりを取った時の驚きようといったら。「単身パックで充分ですね」と言われたのに、実際には標準サイズのコンテナが必要だと判明した。月給の半分近くが吹き飛ぶ金額。それで目が覚めた。

そもそも地方の家賃なら、この費用で数ヶ月分に相当する。だったら思い切って、本当に必要なものだけ持って行こう。そう決めたのは、夜中の2時だった。

ノートパソコン、着替え数枚、愛用していた文房具セット。食器は引っ越し先で揃えるとして。本は正直に言うと手放すのが辛かった。20代の自分が選んだ本たちだから。でも、読み返したことのない本を20冊抱えて移動する理由が思いつかなかった。

不要品販売アプリで次々と手放していく作業は、思ったより気持ちよかった。値段がつくことの喜びもあれば、誰かが欲しい状態で受け取ってくれることの満足感もある。8年の積み重ねが、3日で数万円に変わる。

引っ越しの朝、最終的に俺が持ち運べるのはキャリーバッグ1つとバックパック。駅のロッカーに預けたこともある量だ。新幹線の乗客の中で、ひときわ身軽に見えるのは自分だけじゃないかと思った。

田舎の実家に到着した時、母親は訝しげな顔をした。「こんだけ?」と。その返答は、自分自身にもまだ定まっていなかった。これで足りるのか。足りないのか。その判断を下すのは、これからの日々なのだろう。

続きはまもなく

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