第1話
第一話 判断の委譲
プロジェクト管理ツールのダッシュボードを眺めながら、佐藤は首をかしげた。先週導入したAIエージェントが、顧客対応のルーチンワークを自動処理し始めたのだが、その効率の良さに、何か釈然としない気持ちがつきまとっていた。
「実務的には問題ないんですよ」と、デジタル推進室の田中が説明する。「基本的なクエリ分類、初期対応、必要なリソースの自動配置。これまで人間が二時間かけていた業務が、ほぼリアルタイムで完結します」
数字だけ見れば、確かに素晴らしい改善だ。しかし佐藤が懸念しているのは、その先にある何か曖昧なものだった。「ただ、顧客の満足度は実際のところ、どう変わった?」
田中は一瞬言葉を濁す。「正確には、まだ計測中です。ただ、クレーム件数は増えてはいません」
確かに増えていない。だが減ってもいないのだ。佐藤の経験では、顧客体験が本当に向上すれば、そうした指標は必ず変動する。AIエージェントはタスクを完了させているが、何か人間特有の対応—判断の揺らぎとも言える部分—を失っているのではないか。
夜遅く、ログを眺めていると、一件の自動対応が目に留まった。標準的なルーチンでは処理しきれない、複合的な背景を持つ顧客対応だ。エージェントは最適な選択肢を推奨したが、その判断の根拠を追ってみると、何か本質的な問題を見落としているように思えた。
明日、チーム会議でこれを提起してみようか。自動化は時間を生む。その時間を何に使うかが、本当の問題なのだと思い始めていた。
続きはまもなく
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