第1話
第一話 目覚めない朝
また朝か。目覚まし時計の音で半ば無理やり意識を引き戻される。布団から出る気力もない。昨晩も深夜1時まで仕事のメールをチェックしていた。寝たはずなのに体が重い。
朝食を急ぎで済ませ、会社に着く頃には既に疲労感が全身を覆っていた。会議中も集中力が散漫で、資料の内容が頭に入らない。これは睡眠時間の問題なのか、それとも別の理由なのか。
帰宅後、ベッドに横たわりながらスマートフォンをいじる。SNSをスクロールしていると、睡眠の質について書かれた投稿が目に止まった。「時間より質」という言葉。何度も聞いたことはあるが、自分の場合は時間すら確保できていない状況だ。
ふと、隣の部屋から聞こえる音に気付く。規則正しいリズムで何かが鳴っている。川のせせらぎのような、雨音のような。心地よい音だ。その音を聞いていると、自分の部屋がどれだけ静寂に満ちているか—いや、むしろ生活音で満ちているかに気づく。冷蔵庫の音、窓の外の車の音。自分の浅い呼吸まで聞こえる気がする。
こんなに意識しながら寝ていれば、質も落ちるだろう。
次の日、仕事帰りに目に留まったのは小さな雑貨店。ふらりと入ると、店奥に睡眠関連のグッズが並んでいた。アイマスク、枕、アロマテラピーの瓶。値段は様々だ。全部が必要なわけではないだろう。でも、何か一つ試してみる価値はあるかもしれない。
レジ前で立ち止まり、手に取ったのはシンプルな白い枕だった。素材や形状についての説明は複雑だが、店員が「寝返りが打ちやすい」と言っていた。その言葉だけで十分だった。
帰宅後、新しい枕を使って寝てみる。最初は違和感があったが、寝返りを打つたびに自然な流れを感じた。朝まで一度も目覚めることなく、朝日で目を開けた。
体が軽い。これまで感じたことのない目覚めだ。
続きはまもなく
目次