第5話
第5話 ノートの重さ
彩は、そっとノートを閉じた。
三ページ分のメモ。それは、本の内容を記録したものではなく、読みながら浮かんだ疑問や驚きや違和感のかけらたちだった。先輩が教えてくれた方法は、シンプルだったが、彩にとっては革命的だった。
「なぜ」を問う。その一行が、本との関係を変えた。
図書館を出る時、彩は先輩のことを考えていた。あの人影は、本当に先輩だったのか。それとも、気のせいだったのか。
帰路、彩はいつもと違う道を歩いた。新しいノートを鞄に入れたまま、路地を曲がると、古い喫茶店が目に入った。看板には、手書きの文字で「明日香」と書かれていた。ふと、彩はその中に入った。
カウンター席に座ると、年配のマスターが現れた。
「初めてですか」
「はい。通りすがりで」
コーヒーを注文して、彩は鞄からノートを取り出した。本当は、ここで読書を続けるつもりだった。だが、指はペンを握ったまま、止まっていた。
メモを取る行為が、本を読むことと同じくらい大切だと感じ始めていた。だから、次に何を書くのか、その選択が重要に思えた。
「何か、迷ってますか」
マスターの声がした。
「あ、いえ。ちょっと」
彩は、ノートのページをめくった。先輩から渡されたペンの重みが、いつもより強く感じられた。この喫茶店に来たのは、本当に偶然なのか。それとも、このノートを持っていることが、彩を何かへ導いているのか。
マスターがコーヒーを置いた瞬間、彩の目に、店の奥のテーブルに置かれた一冊の本が映った。
それは、彩が昨日の図書館で見かけた、先輩が持っていた本と同じ背表紙だった。
そして、その本の隣には、やはりノートとペンが置かれていた。
続きはまもなく
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