夜明けの処方箋

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第6話

夜空の対話

女性は視線を夜空に戻した。「私も、つい最近までは時間に追われていました。朝から晩まで、何かに急き立てられるような生活。気づいたら、空を見上げることすら忘れていた」

佐藤は女性の言葉に耳を傾けた。他人の人生の話のはずなのに、自分のことを言われているような錯覚に襲われた。

「眠れなくなったのは、その頃からです」女性は続けた。「体が疲れているのに、頭だけが冴えていて。朝になると、一日を何も覚えていない自分に気づく。そんなことが続いて、ある日、医師にこう言われました。あなたの眠りは体の問題ではなく、心の問題だと」

それは佐藤が聞いた言葉とは異なっていたが、根底に流れるものは同じに思えた。

「心の問題というのは」佐藤は慎重に問いかけた。「どういう意味ですか」

「生きている実感が薄れているということです。毎日を消化しているだけで、本当に生きているかどうか、疑わしくなる。その不安感が眠りを奪うのだと」

女性は再び夜空に目を向けた。月の光が彼女の横顔を柔らかく照らしていた。

「だから医師は、夜間に外に出ろと指示したわけです。星を見ながら、自分がまだ存在していることを感じさせるために。小さなことですが、毎晩ここに来るようになって、二週間。眠りが戻ってきました。体だけでなく、心も」

佐藤の胸に、医師の言葉がようやく形をなした。『人生の眠りから目覚めるには』。それは、眠りの質を高めることではなく、昼間の人生をもう一度感じることだったのだ。

「これからも来るのですか」佐藤は尋ねた。

「ええ。時間が止まるこの感覚が好きになってしまいました。夜空を見ていると、急ぐ必要のないことばかりが思い浮かぶんです。本当は大事なこと」

二人は再び沈黙に包まれた。都会の喧騒は遠く、ここには静寂と星光だけがあった。

佐藤は気づいていた。自分の眠りはまだ始まったばかりだということを。そして、この女性との出会いが、その先へと進むための道標になるかもしれないことを。

続きはまもなく

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