第1話
第一話 忘却との戦い
また忘れてた。
図書館の帰り道、先週読み終わった本のタイトルすら思い出せない。面白かった気がするのに。登場人物の名前?ラスト?もう霧の中だ。
「なんでこんなに覚えられないんだろう」ってずっと思ってたんだよね。読んでる最中は結構没入するのに、時間が経つと本当に何も残らない。友達に「この前読んだ本、良かったよ」って言ったら「どんな話?」って聞かれて、詳しく説明できなくて微妙な雰囲気になったことも何回かある。
だから読書メモとか取ってみようかなって思い始めて、古本屋に寄ったんだ。適当なノートでいいかって。
そこで見つけたのが、その本だった。別に推してるわけじゃないんだけど、手に取った瞬間になんか引っかかるものがあって。ページをぱらぱらめくると、誰かが既に書き込みしてるメモがいっぱい。もちろん中古だし、前の所有者のメモが残ってるのは珍しくない。でも、この人のメモ、ちょっと変わってた。
本の内容じゃなくて、「この場面で主人公は何を感じてたんだろう」とか「ここ、自分の経験と似てる」みたいな、かなり個人的な思考が書かれてるんだ。読んでて、こういう読み方もあるんだって。メモって、本の情報を記録するだけじゃなくて、自分と本の対話みたいなものなのかな。
結局そのノートを買った。誰かの痕跡をなぞるみたいで、ちょっと変な感じだけど。
今夜から試してみるか。
続きはまもなく
目次