第3話
第3話 「見ている」ことの意味
高橋が受けた提案は、一見すると親切心からのものに見えた。だが、その内容は高橋自身も気づいていない業務の非効率さを指摘していたのだ。
「データ入力の後、なぜか営業から修正依頼が増えているようですね。形式の問題ではなく、顧客情報の解釈の段階で齟齬が生じている可能性があります」
AIのその一言で、高橋は自分の作業フローを見直した。すると本当に、入力時の判断基準が曖昧だったことに気づいた。修正依頼を減らすための具体的な手順も、AIは示していた。
「でも、誰も俺にこんなこと言ってくれなかったぞ」
高橋がそう呟くと、近くで聞いていた鈴木が反応した。
「言ってくれなかったというか、みんな気づいてなかったんでしょ。俺たちは目の前の仕事をこなすのに精一杯で、全体の流れまで見る余裕がない」
田中も加わった。「でもAIには、その『余裕』があるってことですか」
議論は徐々に深まっていった。営業事務という日常の中で、彼らは初めて気づき始めていた。自分たちが何に困っているのか、何が改善できるのか、そもそも何を見落としているのか——そうした問題は、往々にして当事者には見えないものだということに。
AIが「見ている」ものは、単なるデータではなく、人間が無意識に繰り返している行動パターン。そしてそこから生じる可能性や課題だった。
部長の島田は、こうした動きを少し離れた位置から観察していた。当初の懐疑は消えつつあったが、新たな問いが浮かんでいた。
従業員たちがAIに頼り始めるのは良い。だが、このまま進めば、彼ら自身の判断力はどうなるのか。
そしてもう一つ——AIが「見ている」ものを、人間は本当に理解できているのか。
続きはまもなく
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