段ボール箱の声を聞く

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第3話

移動のあわい

引っ越しまで残り一週間という知らせが、不動産屋からのメールで届いた。段ボール箱は今、部屋の五箱に増えていた。

毎晩少しずつ、詰める作業を続けている。完全に埋まった箱もあれば、半分ほど詰めて止まったままの箱もある。その状態が、今の自分を映しているような気がしていた。

木曜の夜、職場の同僚から連絡があった。「引っ越し、手伝おうか」という気遣いの言葉だ。ありがたいが、どう返事すればいいか迷った。この作業に、自分以外の誰かを呼ぶということは、それが終わることを意味する。引っ越しが現実になる瞬間だ。

断った。「自分のペースでやりたい」と。本当の理由は、もう少しこのあわいにいたかったのだ。今の部屋を完全に去る前の、浮遊感の中に。

金曜日、思いがけず、かつての大学の友人から連絡が来た。新しい住所を聞かれて、初めてそこを声に出した。まだ段ボール箱の中だけにある、あの部屋について。説明する自分の声が、他人事のように聞こえた。

土曜日の朝、クローゼットの前に座っていると、まだ詰めていない衣類が見えた。その中には、親から贈られたセーターがあった。もう五年は袖を通していない。でも箱には入れられなかった。手放すのか持ち運ぶのか、判断ができないまま、週末を迎えようとしていた。

部屋を見回ると、どれが古い世界で、どれが新しい世界に属するのか、その区別がぼやけて見えた。段ボール箱の中と外の境界も、自分がいま立っている場所も、みんな曖昧だ。

次の月曜日、新しい部屋の鍵を受け取ることになっている。

続きはまもなく

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