第1話
第一話 何を持っていくのか
引っ越しの話が決まった時、私が最初に感じたのは解放感ではなく、妙な不安だった。今の部屋に七年いる。その間に、私たちの関係が変わった物がいくつもある。
引っ越し業者の見積もりを見ると、運べる量の目安が書かれていた。その数字を見て初めて気づいたのだが、私は自分が何を持っているのかをほとんど知らない。クローゼットの奥、本棚の隙間、キッチンの引き出しの奥。毎日を過ごす中で、自動的に増えた物たちだ。
段ボール箱を用意して、とりあえず手近な物から詰め始めた。本、服、食器。やっていると、それぞれの物がいつ来たのか、なぜ持っているのかを思い出す。もう読まない本。サイズが合わなくなった服。使う予定で買ったまま眠っている調理道具。新しい部屋ではどれが必要なのか。その問いが、今の自分にとって何が必要なのかという問いに変わっていく。
引っ越しは、物を移す作業だと思っていた。でも段ボール箱に向き合っていると、これは選別の時間なのだと気づく。何を連れていくのか。何を手放すのか。その判断の積み重ねが、新しい生活の形を決めていくのだ。
一つの箱が満杯になり、ガムテープで塞いだ。その瞬間、妙な充足感があった。少なくとも、この箱の中に入っている物たちについては、決めたのだ。私が選んだのだ。
まだ部屋の半分も手をつけていない。でも今夜はここまでにしよう。明日また、別の段ボール箱と向き合おう。
続きはまもなく
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