第1話
第一話 ノイズの中の言葉
夜勤の管制室は、いつもより静かだった。佐藤は三杯目のコーヒーを啜りながら、モニター群を眺めていた。火星探査機からの定期信号はまだ数時間先。退勤まで、あと四時間。
そのとき、ノイズが走った。
周波数チャート上に、突然の波動。定められたチャネル外からの干渉だ。佐藤は身を乗り出した。こんなことは滅多にない。システムはクリーンに設計されているはずだった。
彼は記録を再生させた。ノイズは規則性を持っていた。完全なホワイトノイズではなく、何かが意図的に組み込まれているように思える。心臓の鼓動が早くなった。
「おかしいな」
佐藤は同僚の田中に声をかけようとして、手を止めた。報告する前に、もう一度確認したい。何か重要なものを見落としているような気がしたのだ。
イヤホンを装着し、ノイズの音声部分を強調処理にかける。スピーカーから聞こえてきたのは、断片的だが確かに存在する——パターンだ。
まるで、誰かが遠く離れた場所から、こちらに呼びかけているような。
佐藤は管制室の天井を見上げた。火星はいま、地球からおよそ億単位のキロメートル先にある。探査機は人間が作った最も遠い使者だ。だから、この信号はあり得ない。あるはずがないのだ。
だが、ここにある。
彼は深呼吸をして、キーボードに向き直った。ログを掘り出し、過去四十八時間のデータを遡る。同じパターンがほかにもあるか、探してみようと思った。
スクリーンが次々と切り替わり、数字と波形が踊る。そして、見つかった。複数回、同じリズムで現れている。意図的に、何度も。
「待ってくれ」
佐藤は呟いた。相手が誰かは分からない。だが、確かに何かが、ここまで、メッセージを送ろうとしている。
夜明けまで、あと三時間。彼はコーヒーを飲み干し、もう一度イヤホンを耳に当てた。
続きはまもなく
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