第7話
間違いを引き受ける
その問いが頭から離れない。月曜日の朝、田中さんからの返信メールを開いた時も、その問いが付きまとっていた。
田中さんの指示は明確だった。修正の方針、進捗の調整、顧客への連絡タイミング。すべてが論理的で、実行可能な内容だ。だが、僕の中には別の疑問が残っていた。
もし、この判断が最善ではなかったら。もし、別の方法の方が結果として良かったら。その時、責任はどこに行くのか。
デスクに座り、メールの内容を改めて読み直す。論理的には問題ない。だが、仕事というのは論理だけでは成り立たないことを、この数ヶ月で何度も感じてきた。市場の反応、顧客の心理、予期しない変数。完璧な計画でさえ、現実の前では脆い。
「何か考えてるな」
田中さんが声をかけてきた。メールの返信をしてくれたのは夜中だったのに、朝一番で事務所にいるはずがないと思っていた。
「メールの内容について、少し」
「ああ、あれか。何か問題でも」
ここだ、と僕は思った。正直に疑問をぶつける時だ。
「もしその判断が間違っていたとしたら、僕はどう受け止めればいいのでしょうか」
田中さんは一瞬、眉をひそめた。そして、椅子を僕の方へ向け直した。
「間違っていたとしたら、ね」
「はい。だから、判断を仰いだわけですが」
「そこなんだ。君は今、僕の判断に責任を預けようとしている」
その言葉が、心臓に突き刺さった。
「でも、責任は預けられない。預けた気になることはできるけど、現場にいるのは君だ。実行するのも君。その先の修正もしていくのも君。だから、僕の判断を参考にしても、最終的な責任は君が引き受けるしかない」
「ですが、僕だけの判断では」
「完璧じゃないかもしれない、ってことか」
僕は頷いた。
「そうだ。完璧じゃないかもしれない。でも、それでいいんだ。大切なのは、不完璧であることを知った上で、それでも判断を引き受けるかどうか。その覚悟が、次の行動を変える」
田中さんは立ち上がり、僕の肩に手を置いた。
「メールで相談してくれたのは、逃げじゃない。必要な情報を集めるステップだ。ただし、最後の判断は、やっぱり君がする。僕のアドバイスが外れることだってある。その時、君はどうする」
その問いに、僕は言葉を失った。
続きはまもなく
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