型の迷宮

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第3話

優先順位の重み

会議室を出た後、佐藤は渡辺に声をかけた。「さっきの森田さんの質問、実装の観点からどう思われますか」

渡辺は足を止めた。「正直なところ、気になっている。厳密な型設計は理想的だが、現実のコードベースは理想を前提にしていない。レガシーな部分も多い」

二人は廊下の隅で立ち話を続けた。佐藤は自分の案をもう一度説明した。「レイヤーごとに要件を変えるのは、それぞれの層が果たすべき役割を認識することだと思うんです。入力層は『とにかく受け取る』、ビジネスロジック層は『正確に処理する』。その違いを型で表現しないから、混乱が生じる」

渡辺は頷きながら、しかし別の懸念を口にした。「その『役割の違い』が、実装チーム全体で共有できるのか。設計書には書けるが、運用ではどうか。新しいメンバーが入ってきたとき、この思想が伝わるか」

会話は技術的な問題から、コミュニケーションの問題へスライドしていた。佐藤は気づき始めていた。型の問題は、実は人の問題だということを。

「加藤さんに相談してみましょうか」と渡辺が提案した。「ベテランの目から、この案がどう映るか」

翌日、三人は小さな会議室に集まった。加藤はスケッチを見て、長く沈黙していた。その沈黙は反対ではなく、別の視点を模索している沈黙に見えた。

「これを実装するなら」と加藤は言った。「チーム内で『何を失うか』を明確にする必要がある。柔軟性を取れば保守性が下がる。厳密性を取れば開発速度が落ちる。その代償を、みんなで引き受ける覚悟があるか」

部屋は静かになった。型の迷宮は、もはや技術的な問題だけではなくなっていた。

続きはまもなく

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