第1話
第一話 白い封筒
就活も一区切りついた四月の午後、僕は親友の山田からコーヒーに誘われた。いつもと違う落ち着いたカフェで、彼は一冊の薄い本を机の上に置いた。
「最近、投資信託って知った。親父から聞いたんだけど、俺たちの給料だけじゃ将来ヤバいらしいぞ」
正直なところ、投資という言葉は僕にとって縁遠いものだった。株価チャートを眺める人たちは、別の世界の住人だと思っていたし、そもそも損したら怖いという漠然とした不安があった。
「でも難しいんじゃないか」と僕が呟くと、山田は首を横に振った。
「実は簡単らしい。プロが運用してくれるから、個別株みたいに毎日チェックしなくていいって。そこが良さみたい」
その夜、帰宅して親に聞いてみた。母は「そういう時代になったのか」とどこか他人事のような返事をしたが、父は意外にも前向きだった。彼は銀行員ではない普通の会社員だが、会社の財形貯蓄で似たようなものに入っているという。
「最初は怖いだろうが、若いうちに少額で慣れるのは悪くない。ただし、焦るな」
その週末、僕は銀行の窓口に立った。窓越しに見える投資信託の商品一覧は、知らない名前ばかりで圧倒される思いだった。窓口の女性は丁寧に説明してくれたが、専門用語が頭の中を素通りしていく。アクティブ、インデックス、信託報酬。
それでも、説明を聞きながらぼんやり思ったのは、これはゲームに似ているということだ。ルールを学んで、戦略を立てて、長期で様子を見る。失敗もあるだろうが、完全に負けることはない仕組みのようにも思えた。
「まずは少額から始めてみては」と窓口の女性は勧めた。
僕は決めた。社会人になったら、毎月少しずつ積立てを始めよう。資産運用という庭を、これからゆっくり耕していくのだ。
続きはまもなく
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