第3話
必要と不要の間で
駅に向かう道すがら、佐藤は昨日の迷いが頭から離れなかった。セーターの色、素材、枚数。そうした要素ごとに判断を分けていくと、答えはより一層曖昧になっていく。むしろ、断捨離を始める前より、物への向き合い方が複雑になっている気がする。
会社の昼休み、デスクで弁当を食べながら、同僚の田中が話しかけてきた。最近部屋を片付けたという。その話ぶりは明るく、断定的だった。必要なものだけを残す。迷ったら捨てる。シンプルで気持ちいい、と。
佐藤は思わず聞いてしまった。「迷った物は、本当に不要だと思いますか」
田中は少し考えてから答えた。「迷う理由は、大抵情報不足だと思う。使わないなら不要。それだけだ」
しかし、佐藤が本当に知りたかったのは、その先だった。情報不足で迷っている段階で、なぜ急いで判断を下す必要があるのか。その問いは、田中には伝わらなかった。
帰宅後、再びクローゼットの前に立つ。セーターはまだそこにあった。今日も判断できなかった。しかし、今回は違う感覚がある。迷いは判断の失敗ではなく、判断の過程そのものなのではないか。
自分にとって本当に必要なものが何かは、物の客観的な価値では決まらない。それを知るプロセスの中でしか、答えは見えてこないのではないか。
佐藤は決めた。セーターをハンガーに戻す。その横に、手帳を置く。いつ、どんなときに、この物に頼りたくなるのか。その記録をしてみることにした。
続きはまもなく
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