第3話
ルーティンの隙間に
新しい野菜との出会いから数日が経った。あの朝のときめきは、次の日、また次の日へと、小さな探究心を残していった。
食材を選ぶときの視線が変わり始めたのは、そのころだった。いつもの定番野菜を手にしながらも、その隣に何があるかを見るようになっていたのだ。珍しいものばかりを選ぶわけではない。同じ野菜でも、産地が違ったり、大きさが違ったりするものを比べてみる。そんな小さな選択の繰り返しが、毎日をすこし丁寧にしていた。
ある日のこと。いつもの味噌汁の中身を思い返してみると、ここ数週間で相当な数の野菜が登場していることに気づいた。別に計画的に選んでいたわけではない。ただ、その日その日で「今日はどうしよう」と少し考える癖がついていただけなのだ。
そんなとき、ふと思ったのは、この小さな迷いや考える時間こそが、自炊を続ける秘密かもしれないということだった。完璧なレシピに従うのではなく、同じ味噌汁の中で試行錯誤を重ねることで、退屈さが遠ざかっていく。失敗もある。新しい野菜が想像と違う味だったこともある。でもそれらすべてが、食卓という日常の中で、ちいさな物語を作っていた。
ふとスマートフォンを開いて、今までのレシピサイトの履歴を見た。最初のころとは違い、最近ではほとんど開いていない。かわりに、キッチンの引き出しに、手書きの小さなメモが増えていた。「この野菜は硬いので、早めに入れる」「この組み合わせは合う」——自分だけの、小さな発見の蓄積だった。
こうして毎日が重なっていくことで、自炊というルーティンが、ただの義務ではなく、何かもっと味わい深いものへと変わりはじめていたのだ。
続きはまもなく
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