第2話
第2話 分布の外側
現実になってた。
月3万円。手取りじゃなく、ほぼ売上そのまま。サーバー代とか決済手数料を引いても、バイト時代の週給分が毎月勝手に口座に入ってくる。研究費の足しにもなるし、コーヒーだって好きなの買える。
でも違和感は消えなかった。
大学院の研究室で、指導教授に報告した。「いやあ、いいことじゃないか。世間に貢献しながら稼ぐなんて」と笑われた。でも僕の中では何かが反転してた。ツールを作ったのは、あくまで研究をよくしたかったから。それなのに、いつの間にか「月3万の売上」という数字が、判定軸になってる。
TwitterのDMは相変わらず殺到してる。「企業導入実績ありますか」「SLAは」「専用サポート体制は」。ビジネス用語が増えるほど、僕の答えは「すみません、まだ学生で…」になってた。
研究は相変わらず進まない。論文の締め切りも近い。でもツールのアップデート要望も増えてる。どっちに時間を使うべきなのか、判断がつかない。
友人が言った。「起業しろよ」。冗談のような、真面目なような声だった。
僕はシミュレーション結果のグラフを眺めた。正規分布に近い山なりの曲線。中央に集中した平均的な値。そしてロングテール。
もしかして、人生もそんな分布なのかな。多くの人は平均的なキャリアパスの中にいて。でも何か異なる価値を生むと、分布の端っこに飛び出す。そこは不確実性に満ちてて、標準偏差も大きい。
どっちが正解か、教科書には載ってない。
月3万円の売上は、僕を平均の外へ押し出した。でもそこで何をするかは、まだ何も決まってない。決めなきゃいけないのかもしれない。
明日も、ノートPCの前に座ろう。今度は何をコードするのか。その選択肢が、急に重く感じられた。
続きはまもなく
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