第1話
第一話 ペダルの音
月曜日の朝、いつものように自転車に乗った。家を出るのは六時四十五分。オフィスに着くのは七時四十分。毎日同じ時間、同じルートだ。
駅前の交差点を左に曲がると、商店街の脇道に入る。ここからが本当の通勤ルートだと思っている。人通りが少なくなり、ペダルを踏む音が耳に入るようになる。昨日の雨で路面が濡れているせいか、いつもより音が大きく聞こえた。
左側の花屋の前を通り過ぎる。毎週火曜日に花が入れ替わる。季節ごとに異なる花が飾られるので、自分にとっては無意識の季節感知機だ。今の季節は何だろう。そう考えながら走るのが習慣になっている。
金曜日の会議で指摘されたことがまだ引っかかっていた。プレゼンテーション資料の構成について、上司から「もっと実装を意識しろ」と言われたのだ。実装を意識する、か。そんなことを考えながらペダルを踏んでいると、前方に信号が赤になるのが見える。
ブレーキをかけた。自転車は静かに止まる。信号待ちの間、周囲を見回した。向かいのビルの壁にはツタが這っている。これも季節によって色が変わる。緑から茶色へ。それから春に向けて、また緑へ戻る。
信号が青になった。ペダルを踏み込む。週末にもう一度資料を見直してみようか。実装を意識した構成なら、どうなるだろう。そんなことを考えながら、いつもの一本道を進んでいった。あと五分で到着だ。
続きはまもなく
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