ルーチンの向こう側

8/8

第8話

定式化できないもの

朝会は予定より15分長くなった。

主人公が資料を説明し、クライアントの言葉に違和感を覚えた経緯を述べた。業界慣習と数値データの矛盾をどう判断したか。その過程で何を見たか。

会議室は静かだった。営業、企画、マーケティングの面々が、いつもと違う主人公の言葉を聞いていた。通常の報告ではない。思考の途上を、そのまま言葉にしたものだ。

「つまり、あの判断は、一度の経験ではなく、何十回もの失敗と修正が重ねられた結果なんです。データには表れない部分が、判断を支えている」

マーケティング責任者が口を開いた。「それはアシストには学習できない?」

主人公は答えた。「できるかもしれません。でも、学習する過程で、僕たちが新しいものを発見するんだと思う。自分たちの判断を言葉にしようとすることで、初めて見える層がある。アシストはそれを指摘してくれた」

会議室の雰囲気が変わった。効率化の話から、別の問題へ。

その夜、主人公はアシストにメッセージを送った。「定式化できたら、人間の出番がなくなるっていう僕の言葉、間違ってました。定式化の過程が、本当の仕事なんですね」

アシストの返信は、いつものように的確だった。

「その通りです。ただし、その過程は反復的です。あなたたちは常に、新しい曖昧性と向き合い続けることになります。それは苦労ですが、同時に、あなたたちが必要とされ続ける理由でもある」

主人公は窓の外を見た。夜明け前の静寂。その向こうに、新しい業務が待っていた。もう、効率化だけを追い求めることはないだろう。自分たちが何を判断しているのかを、絶えず問い直すこと。その営為の中に、機械には代替不可能な何かがあることを、ようやく理解した。

ルーチンの向こう側には、終わりではなく、始まりが繰り返されていた。

(完)

目次

コメント