第1話
第一話 異常値
朝の6時、佐藤は目を覚ました。スマートウォッチの画面を確認する習慣はもう3年続いている。心拍数、体温、睡眠ステージの推移。毎朝、昨夜のデータを眺めるのが日課だ。
今朝もいつもと同じはずだった。だけど、グラフに違和感がある。深い睡眠のはずのレム睡眠ステージで、急激なスパイクが記録されている。ノイズにしては規則的だ。
「あ、これ、センサーの不具合かな」
独り言をつぶやきながら、もう一度スマートウォッチを見直す。でも、おかしい。このパターン、昨晩だけじゃない。データを遡ってみると、この一週間、毎晩同じような異常値が出ている。
佐藤は寝惚けた頭で考えた。まさか、自分が眠っている間に何か起きてるってこと?
研究室に着いて、データを自分のパソコンに転送した。拡大してみると、その規則性はさらに明らかになる。午前2時から3時の間、ほぼ毎晩。センサー不具合の可能性は低い。
同僚の鈴木が出勤してきた。
「おい、何か変なことに気づいたんだけど」
佐藤は画面を見せた。鈴木は目を細めて、グラフを眺める。
「あ、これ...」鈴木の顔が少し引き攣る。「これ、うちの研究室の別の被験者からも出てるぞ。同じパターンで」
二人は黙り込んだ。
睡眠中に起こる、この説明できない現象。それはまるで、誰かが意図的に仕掛けたものであるかのように見えた。だが、なぜ。そして、誰が。
佐藤は思った。自分たちは睡眠を研究してきたつもりだが、もしかして、睡眠の方が自分たちを観察しているんじゃないか。
その直後、研究室の電話が鳴った。
続きはまもなく
目次