オフィスの転機

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第2話

自分を言葉にする

その夜、自宅で改めてシートを開いた。会社の机では筆が進まず、環境を変えてみたのだ。

コーヒーを淹れ、ノートパソコンに向かう。キャリア開発のための自己評価シート。項目は単純だ。「現在までに習得したスキル」「得意とする業務」「今後のキャリア希望」。シンプルだからこそ、何を書くべきか余計にわからない。

実績の欄には、過去三年の売上数字を入力した。それなりの成績である。ただ、画面を見つめていると、その数字が自分の全てを表しているとは思えなかった。営業成績は会社の資産であって、自分個人の資産ではないのではないか。そんな考えがよぎる。

電話が鳴った。佐藤からだ。

「お前、シート書いた?」

「まだ。お前は?」

「わからないんだよ。何を書けばいいのか。営業スキルって言ったって、結局みんな同じようなことやってるじゃんか」

その言葉が、モヤモヤの正体を言い当てた。佐藤も同じことを感じているのだ。

通話を切った後、もう一度シートを見た。「交渉スキル」と入力してみたが、すぐに消した。誰もが持っているスキルで自分を説明することに、違和感がぬぐえない。

そこで視点を変えてみた。営業という職務ではなく、営業活動の中で何をしてきたか。クライアントとの関係構築。契約前の段階での信頼醸成。案件が長期化したときの対応。顧客からのクレーム対応で関係を修復した経験。

そうやって具体的な場面を思い出していくと、少しずつ言葉が浮かんだ。ただし、それらは標準的なスキルの名前ではなく、自分がどう行動したか、その過程を記述する形になっていた。

時計は深夜を指していた。シートは五割程度の完成度だ。「今後のキャリア希望」の欄は、まだ空白のままである。

続きはまもなく

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