データの向こう側

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第3話

データの向こう側 第3話 文脈という地層

佐藤さんの言葉は、私の中で何かを反転させた。グラフは過去の記録だと思っていた。でも実は、過去の決定の痕跡なのだ。

「本質を見落とします」佐藤さんが文を切った。私は続きを促すように身を乗り出した。

「だから、データを読む前に、必ず現地に行くんです。わたしはそうしてます」

佐藤さんはノートパソコンを開いた。画面には、先ほどの測定地点の地図が映る。郊外から都市部への移設地点。その周辺を衛星写真で拡大する。

「1980年代、ここは何があったと思いますか」

モノクロの航空写真では判別がつかない。佐藤さんは指を動かす。次々と異なる時代の写真が現れる。田畑が消え、新興住宅地が広がり、商業施設が立ち並ぶ。

「測定地点の移設は、気象学的な理由じゃなく、この変化が理由なんです。都市化で、元の場所は『代表的な気温』を測れなくなった。だから移した。つまり、気温上昇のグラフに見える部分は、気候変動と都市化の両方が混ざってる」

私は考えた。では、実際の気候変動はどのくらいなのか。どうやって分離するのか。

「それが研究なんですよ」佐藤さんは静かに笑った。「数字は嘘をつかない。でも、沈黙してる部分がある。その沈黙を言葉に変える作業。それがデータを読むということなんです」

図書館の蛍光灯が、机の上のノートと写真を照らしていた。私は、自分がこれまで気象学だと思っていたものが、実は何か別のものであることに気づき始めていた。

「次は、現地に行きませんか」佐藤さんが提案した。「実際に、古い測定地点跡を見に」

それは、教科書では教えてくれない、違う種類の学びへの招待だった。

続きはまもなく

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