第3話
型の宣言
朝礼の時間、田中は資料を机の上に広げた。スライドには、既存コードの決済ステータス処理と、新しい型設計の比較が映っている。
「ここでは、ステータスを文字列で管理していました。でも、これだと無効な遷移を防げない」
田中は、一つの図を指した。矢印がいくつかの状態を結んでいる。完了からは、もう遷移できない。保留中からは、完了か失敗か。失敗からは、戻らない。
「型システムでこのルールを明示すれば、プログラマがうっかり無効な遷移を書いたとき、コンパイラが教えてくれます」
佐藤が手を上げた。「でも、型定義って増えると複雑になりませんか」
「確かに。だから、単に既存コードに型をかぶせるわけじゃなくて、ビジネスロジック自体を型で表現し直すんです。複雑に見えるかもしれませんが、実は曖昧さがなくなるから、長期的には保守性が上がる」
古参の加藤は黙っていた。彼は十五年、このシステムを支えてきた。新しい手法に懐疑的なのは無理もない。
「試しにやってみませんか」と田中は続けた。「小さなモジュールから始めて、三週間で効果を検証します」
会議室は静かだった。田中は、その沈黙の中に様々な感情があることに気づいた。期待、不安、疲れ。二年間の積み重なった修正作業の果てに、ようやくここまできたのだ。
加藤が口を開いた。「やってみようか」
その言葉は、軽いものではなかった。
続きはまもなく
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