第4話
第4話 手探りの余白
本を読み進めるうちに、別の変化に気づき始めた。
朝起きてから夜寝るまでの時間の使い方が、微妙に変わっていたのだ。以前なら、通勤電車ではSNSをスクロール。昼休みはニュースアプリ。帰宅後もベッドの中で動画を流す。そうした隙間時間が、確かに埋まっていた。だが同時に、その時間の中で何かを考えることはなかった。
スマートフォンがないと、その隙間は埋まらない。駅のベンチに座って、何もしない時間が生まれる。電車の中で、ただ景色を眺める。その数分間が、妙に長く感じられた。
木曜の朝、いつもより早く目が覚めた。カーテンを開くと、外はまだ薄暗い。部屋に戻って、椅子に座る。そこで初めて気づく。この静寂は、不快ではなく、むしろ心地よかった。脳が何かを処理している感覚。それが何なのかは、まだ言葉にならない。
会社では、同僚が昼休みにスマートフォンを見ている姿が、別のものに見え始めていた。彼らを責める気持ちはない。ただ観察する気持ちで見ていた。自分も数週間前までは同じだったのに。
帰宅後、本を読んでいると、親から電話がかかってきた。家の固定電話である。何か問題があったのか、一瞬不安になった。だが話を聞くと、ただ様子を見たいという理由だった。こんなことは、スマートフォン時代には珍しかった。
その夜、部屋の中を見回る。机の上には、かつてなく何もない。本とペン。それだけだ。本棚には、読みかけの本が四冊。以前なら十冊以上の積ん読があったはずだ。
ベッドに横になり、天井を見つめる。何かが整理されているのは確かだ。だが同時に、新しい問いが生まれ始めている。削ぎ落とした先に、本当は何があるのか。その答えは、まだこの生活の中には隠れているように思えた。
続きはまもなく
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