第1話
第一話 目覚める前に
また寝られなかった。スマートフォンの画面を消して、天井を見つめながら時間を数える。午前2時。明日も早いのに。
毎晩こんな感じだ。布団に入っても、頭がくるくる回る。仕事のことを考えたり、明日のプレゼンを想像したり、時には特に何も考えていないのに、身体だけが緊張している感覚がある。
朝になると疲れている。それなのに夜が来ると、また眠れない。この悪循環から抜け出せずにいた。
土曜日の午前中、寝不足のままぼんやり歩いていたら、駅前の新しい寝具店に吸い込まれるようにして入ってしまった。薄暗い店内には、いろんな硬さの枕やマットレスが置いてある。値段が高そうだ。
「いらっしゃい」
店の奥から出てきた店主は、思ったより若い女性だった。さらっとした口調だけど、目が澄んでいる。睡眠不足と無縁そうな、羨ましい顔立ちだ。
「あ、ちょっと見てるだけです」と言ったのに、店主は「眠れてないんですか?」と聞いた。顔に出てるんだろうか。
「まあ、その……」と曖昧に答えると、店主は枕のコーナーに案内した。
「いい枕を選ぶのって、実はそんなに難しくないんです。でも多くの人は、枕だけを変えようとする。睡眠って、もっと全体的なものだと思いませんか?」
全体的?何のことだ。
「ベッドに入る前、何をしてますか?」
「スマートフォンを見たり……」
「そこからですよ」と店主は微笑んだ。
「睡眠の質を上げるって、ちょっとした工夫の積み重ねなんです。枕を変えるのはその一つに過ぎない。むしろ、寝る前の時間の過ごし方とか、部屋の環境とか、そういう小さなことの方が、よっぽど大事だったりする」
初めて聞く視点だった。いままで、自分は「寝付きが悪い体質だから仕方ない」と諦めていた。でも、この店主の話を聞いていると、何か変えられるんじゃないか、という気がしてくる。
「試しに、今夜から何か一つ、小さなことを変えてみませんか?」
そう言われて、帰り道を歩きながら考えた。何を変えたらいいのか。そして、本当に変わるのか。
でも、これまでのやり方は上手くいっていない。試してみるのも悪くない。
スマートフォンを手に取りながら、夜の睡眠のことを考えた。
続きはまもなく
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