夜明けまでの実験室

1/1

第1話

第一話 測定の始まり

三時間睡眠が常態化して、もう五年が経つ。研究室の後輩たちは心配してくれるが、自分自身はこの状態に慣れてしまった。ただ、最近になって違和感が増してきた。集中力が散漫になり、実験のミスが増えている。これは単なる疲労ではなく、睡眠の質が大きく低下している証だと気付いた。

同じ分野で研究している友人に相談したところ、まずは現状を客観的に把握することが重要だと言われた。自分がどの程度の睡眠を取っており、その間に何が起きているのか。感覚だけに頼っていては、何も始まらない。

思い立ったが吉日だ。その夜から、簡易的な睡眠記録を付けることにした。就寝時刻、起床時刻、途中で目が覚めた回数、寝起きの主観的な疲労感。データとしては粗いが、これが第一歩になるはずだ。

スマートフォンのアプリも試してみた。加速度センサーを使って睡眠の深さを推定するというものだ。精度については疑問が残るが、参考値としては悪くない。毎朝、画面に表示された睡眠スコアを眺めるのが習慣になり始めた。

翌週、データをまとめてみると、自分の不眠パターンが見えてきた。入眠までに一時間以上かかることが多く、深夜に二、三度目が覚める。そして明け方の浅い睡眠中に最終的に起床してしまう。これでは脳も身体も休まるはずがない。

問題が明確になると、奇妙なことに気分が前向きになった。相手が不定形な「不眠」という敵ではなく、いくつかの具体的な課題へと変わったからだ。研究者として、これは解くべき問題に変わった。

今夜も記録を付ける準備をしながら、自分は思う。科学的なアプローチであれば、睡眠の質も改善できるはずだ。その確信が、久しぶりに心に灯った。

続きはまもなく

目次

コメント