小さな引っ越し術

1/1

第1話

第一話 箱を開ける前に

引っ越しの日の朝、僕は段ボール箱を前にして立ち尽くしていた。新しいアパートは前のところより狭い。明らかに、全部は入らない。

親からは「いい機会だから、必要なものだけ持って行けば?」と言われた。ありきたりなアドバイスだけど、今回ばかりは本気でそう思わざるを得ない。見積もり業者の人も、運送費の話をするときに微妙な顔をしていた。

スマートフォンで「引っ越し 荷物を減らす」と検索してみた。出てくるのは、いつもの「ときめきを感じるか?」という話ばっかり。それはそれで参考になるんだけど、今の僕が知りたいのはもっと実用的なやつだった。

例えば、本。技術書とか参考書とか、いつか読むかもしれないって思って保存してるやつ。電子版で事足りるなら、わざわざ紙で持ち運ぶ必要あるのか。でも完全には手放せないのは、なんでだろう。

服もそう。去年流行ったけど、もう着てないやつ。捨てるのって、自分の過去を否定するみたいで気が引ける。だから多くの人は「いつか着るかも」って思ったまま、タンスの奥底に閉まっちゃう。

窓から新居を見下ろした。思ったより小さい部屋だ。でも、だからこそかもしれない。制限がある環境だからこそ、何が本当に必要か、じっくり考えるチャンスなんじゃないかって気がしてきた。

スマートフォンをしまって、段ボール箱を一つ選んだ。中身を全部出すことにした。まずはそこからだ。何を残すかは、その後で決める。

続きはまもなく

目次

コメント