第3話
曖昧さの正体
「面白いね」田中は椅子を引いて座った。「でも、これ、大変だぞ」
佐藤は田中の顔を見た。否定されるのかと思ったが、田中の目は真剣だった。
「型を変えるってことは、それに合わせて既存の関数も全部直さなきゃいけない。数百個あるんだぞ、ここ。一人でやってたら、何ヶ月かかる」
「わかってます。だから小さく始めてるんです」
「いや、小さく始めるのはいいんだけど」田中は画面を指差した。「こういう時、大事なのは『何のためにやるのか』を、チームが理解しているかどうかなんだよ」
田中は立ち上がり、佐藤に付いてくるよう促した。オフィスの隅にある会議室へ向かった。
中には、年配のエンジニア・鈴木がいた。田中が招いたのだ。
「鈴木さん、この金融システム、最初の設計、覚えてます?」
鈴木は眉をひそめた。「十年以上前だな。何だ?」
佐藤は自分の実験を改めて説明した。型を厳密にすることで、バグを減らせるはずだと。
鈴木は静かに聞いていた。そして言った。
「昔、同じことをやろうとした奴がいたんだ。型安全性を重視した設計にしよう、ってな。でも、途中で諦めた」
「なぜですか?」
「金融の要件が複雑すぎたんだ。規制も変わる。その度に型を変えるのは、現実的じゃないと判断した。スピードを優先した。それが、今につながってる」
鈴木は佐藤をまっすぐ見た。
「お前、本気でやり直すつもりか?」
佐藤は頷いた。
「だったら、単に型を厳密にするだけじゃ足りない。その背景にある、ビジネスロジックの曖昧さを、まず明らかにする必要がある。そこからだ」
続きはまもなく
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